活動
研究開発項目6:生体影響調査
最新活動報告
研究開発課題1:生体応答統合解析(河岡慎平)
当グループでは、遠隔対話システムやロボット、アバターの利用が生体に与える影響を明らかにしようとしている 。方法論として、オミクス解析を利用している。オミクス解析とは生体に存在する一群の分子を一挙に測定、解析する手法論の総称である。例えば、代謝物 (metabolite) のオミクスをメタボローム (metabolome) という(-omeという言葉には総称という意味がある)。オミクス解析を活用することで、ロボットやアバターの利用が生体に与える影響の全体像を調べることができる。分子Aに影響があるのではないかなどの仮説は必ずしも必要ない。これまでに、ヒトの血液に存在する代謝物やサイトカイン、ホルモン、また、血液を流れる免疫細胞に存在するRNAを網羅的に計測する実験系を立ち上げた。これらの多様な情報を、例えばアバターを使用する前と後で取得し、その変化を調べれば、アバターの利用が生体に与える影響を俯瞰的に明らかにすることができる。実際、遠隔対話システムやロボット、アバターの利用が整体に与える影響について、被験者を募集しての研究を開始しようとしているところである。今後、さまざまなデバイス、アバターを利用した際の生体影響を明らかにしていきたい。
研究室HP:https://www.sp.ipc.i.u-tokyo.ac.jp/研究開発課題2:バイオマーカー探索(和泉自泰)
メタボロミクスは俯瞰的視点から原因遺伝子と代謝の関連性を広く見出せることからその利用価値が格段に高まってきている。近年、医学研究においてもメタボロミクスは疾患代謝研究やバイオマーカー探索に応用されるようになってきた。我々は、細胞内の代謝情報を高精度に観測するために、種々のクロマトグラフと質量分析計を駆使した高感度かつ定量的な汎用メタボローム分析法を開発し、疾患と代謝の関連性について基礎から応用までの幅広い研究を展開している。本プロジェクトでは、Zoomなどの遠隔対話システム、ゲームなどの従来アバター、そしてCAの利用が生体に与える影響 (幸福感や満足感、ストレス、疲れなど) を高感度・迅速・正確に検出できる新規のバイオマーカーを、未知物質を含めた超網羅的な測定によって発見することを目指す。
研究室HP:http://bamba-lab.com/研究開発課題3:脳反応計測(春野雅彦)
遠隔対話システムやロボット、アバターの利用が脳と行動に与える影響を明らかにする研究を行っている。また、多くのアバターを同時に効果的に動かすために必要となる脳の働きも研究対象としている。方法論は、fMRIを用いた脳活動計測を用いている。fMRIを活用することで、ロボットやアバターの利用が脳に与える影響の全体像を調べることができる。これまでに、MRI装置の中でアバターとインタラクトしながら意思決定を行っている最中の脳活動を視線やその他の生理データと一緒に計測するシステムを立ち上げた。このシステムを用いて、ヒトは観察者がヒトであるときよりアバターである時の方がギャンブルしやすいことを発見し、その背後にある脳メカニズムを特定する実験・解析を行っている。このような脳活動の変化を調べれば、アバターの利用が脳と行動に与える影響を明らかにすることができる。今後、さまざまなデバイス、アバターを利用した際の脳反応を明らかにする。
研究室HP:https://www.sp.ipc.i.u-tokyo.ac.jp/研究開発課題4:CAを用いた生体反応実験(住岡英信)
本研究開発課題は、他の研究開発課題と深く連携しながら、代謝物やホルモンや脳活動、脈拍といった生体信号を計測するための環境を整備しつつ、CAだけでなく、Zoomなどの遠隔対話システムやゲームなどの従来アバターシステムが生体に与える影響を調査する。その結果に基づき、効果的な操作インターフェースの開発を進める。これまで、遠隔対話システムを通した対話と対面対話についての比較調査や、CAを用いた実証実験における操作者の生体信号計測、CA操作中の疲労感の推定を進めてきた。今後は、CAや従来アバターシステムについての生体調査や、疲労感を軽減する操作インターフェースの開発を進め、生体に優しいCAシステムの開発を目指す。
研究開発課題5:ホルモン検査と健康基準策定(中江文)
私は人の情動を科学的に分析することに取り組んで来ました。特に、麻酔科医で、痛みの専門家であることから痛みのメカニズムの研究に取り組み、現在は痛みを見える化することで、世界で統一化された痛みの物差しを作ろうとしています。このプロジェクトはPaMeLa株式会社、大阪大学、福井大学と共に行い、現場での医師主導治験でアルゴリズムの有用性を確認することができました。最も不快な情動である痛みを科学すると同時に、快情動に対しても、ロボットの先生方と共に、その客観的評価を目指して、様々なアプローチを行ってきました。ハグビーという抱き枕を使った試みでは、ハグビーを使用したほうがストレスホルモンであるコルチゾールの分泌がより抑えられることを示すことができました。コルチゾール以外のホルモンがどのような作用をし、体への変化をもたらすか、恒常性を維持する方向に働くのかについての検討を様々な研究デザインでアプローチし、正常範囲内でのホルモンの変動が、どのような意味をもたらすのかについて治験を重ねています。今後もアバターを用いた研究を通じて、人にやさしいアバターとはどんなものなのか、ものづくりの研究者の方々が参考にしていただけるような研究を進めていきます。