活動

研究開発項目1:存在感・生命感CAの研究開発

最新活動報告

研究開発課題1:存在感CAの開発と高臨場感インターフェースの研究開発(石黒浩)

課題推進者は、人間にとって最も親和的な情報メディアは人間のような存在感をもつロボットであるとの認識のもと、新しい情報メディアとしての人間酷似型遠隔操作ロボットの研究開発に取り組んできた。認知科学や心理学の知見に基づきながら、操作者本人に酷似した見た目をもつ遠隔操作ロボット「ジェミノイド」をはじめ、多様なコミュニケーションロボットの研究開発に従事してきた。その研究成果を踏まえ、本ムーンショットプロジェクトにおいては、操作者の身体・認知・知覚能力を拡張しつつも、操作者の身体として自在に用いることのできる存在感CA(サイバネティック・アバター)を開発する。CAと人との豊かな相互作用を実現するために、CAには人間の表現能力にも負けない表情や身振り手振りの生成機能や、自らの周囲の状況を適切に把握するためのセンサー機能等を実装する。さらに、操作者が自在にCAを操作するための制御インターフェースも研究開発する。そのインターフェースにより、ストレスなくCAを操作することが可能となるだけではなく、操作者がCAをあたかも自らの身体であると感じられるようになることを目指す。

研究室HP:https://www.sp.ipc.i.u-tokyo.ac.jp/
研究開発課題2:高臨場感遠隔操作インターフェースの認知科学研究(小川浩平)

複数台のCAを操作者が自在に操作できるインタフェースの表示技術に関する研究に取り組んでいる。これまでの遠隔操作システムでは、高精細な画像に加えて様々なセンサ情報をできるだけ多く操作者に提供することが、操作の質を向上させると考えられてきた。しかし、多くの情報を与えられることで、操作者はかえって重要な情報を見落としてしまい、操作の質を下げてしまう可能性が指摘されている。そこで課題推進者は、操作者がある状況において着目すべき点を強調し、それ以外の情報量を落とすことで、操作の質を向上させると共に、操作者の負担を軽減させるシステムを開発した。さらに、操作の負担を軽減させる試みの一つとして、自律CAから遠隔操作への切り替えの際に、これまでどのような対話がなされていたかを短時間で、直感的に理解するための、要約技術及び要約表示技術の開発に取り組んでいる。具体的には、雑談のような非タスク指向対話状況であれば、やりとりされた対話のなかの単語、頻度、時系列的な近さといった情報を、表示フォントのサイズ、配置、色に反映させることで、3秒という短時間で3分の会話の内容を理解できることを示した。今後は、これらの基礎技術を統合し、実システムに実装することで、実用的で、操作者の負担の少ない複数台CA遠隔操作システムの実装を目指す。

研究開発課題3:人間型移動ロボット存在感CAの研究開発(仲田佳弘)

多様な社会参画の手段を提供するため、遠隔操作によって日常の環境を自由に移動可能なサイバネティック・アバター (CA) の基本プラットフォームと操作者が強い臨場感を持ってコントロールするためのインターフェースの研究開発に取り組んでいる。本CAは、どのような人に対しても親和的に関わることができるようにするため、子どもらしい大きさ、見かけを持つCAとしてデザインしている。現在、子どもらしい特徴を備え、多様な表情を表出可能なCAの頭部、関節の駆動に使用する小型・静音で安全性の高い電動アクチュエータユニット、人らしい移動時の身体の動きを実現する車輪移動機構の開発を進めている。今後、これらの要素を統合して、移動可能なCAを完成させる。そして、社会実証実験を通じ、遠隔操作でも対面と変わらない対話やふるまいによって、操作者と利用者の自然な交流の実現を目指す。

研究室HP:http://www.nakata-lab.mi.uec.ac.jp/
研究開発課題4:抱擁型生命感CAの研究開発(塩見昌裕)

日常環境下で人と物理的に触れ合いながら対話を通じて支援を行うロボットの実現を目指して、抱擁型CAの研究開発に取り組んでいる。これまで、主に高齢者を対象とした赤ちゃんサイズの抱擁型CA、子どもを対象とした大人サイズの抱擁型CA、および装着型の向けの赤ちゃん型CA、子ども向けのぬいぐるみ型CA、および自己抱擁型CAの開発を進めるとともに、それらのCAに活用するためのタッチセンサの開発も進めてきた。現在、主に子ども(自閉症児を含む)を対象に触れ合いながら対話を行うことでメンタルサポートを行うための実証実験を予備的に進めている。さらに、抱擁型CAの操作者を支援するための技術として、様々な抱擁動作をタッチセンサの出力から高精度に認識するための技術や、抱擁時に利用者とCAの接触状況を可視化して操作を直感的にするためのユーザインタフェースの開発にも取り組んでいる。抱擁型CAとの触れ合いを伴う対話が利用者にもたらす心身への影響を明らかにするとともに、抱擁型CAを介して操作者と利用者の間にもたらされる関係性の変化についても検証を進めていく。

研究開発課題5:生命感CAの開発と連携対話の研究開発(吉川雄一郎)

利用者が無視できない動物のような生命感を持つ生命感CAを開発すると共に、複数の生命感CAが連携して対話することにより、利用者との間で対話を破綻無く継続するCAの対話機能の開発に取り組んでいる。これまで、ダイレクトドライブモータを用いて完全無音で動作する生命感CA、頭部の有機ELディスプレイにより多様な感情・意図表現ができる廉価版の生命感CA、生命感CAに移動機能を持たせた移動型CAを試作し、機能開発に取り組んでいる。また、自律対話機能を持つ2体の小型ロボットの対をCA(連携CA対)として、複数地点に連携CA対を設置し、少数のオペレータにより、複数地点での対話サービスの同時提供が可能なCA制御システムの開発、評価に取り組んでいる。これまでに、娯楽施設(ExpoCityニフレル)、書店(蔦屋ExpoCity店)において、商品推薦の対話サービス提供の実証実験を実施し、オペレータの操作における心理負担の軽減が可能であることを示した。並行して、ロボット(生命感CG-CA)をアバターとする対話機会を提供するオンライン会議システムである、半自律社会的 CGアバタールーム (CommU-Talk) を試作し、機能開発と評価に取り組んでいる。具体的にはグループ7の熊崎と連携し、CommU-Talkを用いた発達障害の青年グループに面接訓練を行わせる実証実験が実施できている。

研究開発課題6:存在感CAの自在動作生成の研究開発(港隆史)

日常社会で人と共生し、主に対話を通して人を支援するロボットの実現を目指して、人とロボットの自然なインタラクションの原理を明らかにする研究を行うとともに、それらの研究プラットフォームとなるロボットシステムの開発にも従事してきた。特に、日常対話を行うアンドロイド「ERICA」の研究においては、アンドロイドの自然な動作生成や、アンドロイドの意図や欲求に基づいて自然な文脈で対話を行うシステムを開発し、2年以上にわたって研究所の共有スペースで実証実験を行っている。さらに、対話ロボットの実社会での利用方法や対話生成技術を企業・研究機関で探る取り組みとして対話ロボットコンペティションの企画運営に従事している。ここには、上記のシステムから生まれた、人との対話インタラクションにおけるアンドロイドの制御を容易に実装できるミドルウェアを提供している。そして、これらの技術を踏まえて、存在感CAを自在に操作するシステムや、様々な状況に適した振る舞いをCAで自律的に表出させるシステムの開発に取り組んでいる。これまでに、操作者が遠隔地にいる臨場感を高めるインタフェースや、CAで対人サービスを行う際のホスピタリティのあるCAの振る舞いを実現してきた。また、CAを用いて企業の受付を行う長期実証実験に、開発した遠隔操作システムを導入して、システムの検証を続けている。

研究開発課題7:CAの対話動作学習機能の研究開発(中村泰)

近年の情報システムや人工知能技術などの発展により、スマートスピーカーなどの自律的な対話システムやビデオ会議システムなど、様々なコミュニケーションのためのシステムが発展してきている。しかし、オンサイトでの人間同士での対話と比べると、ぎこちなさや不自然さが課題として残っている。人間同士のコミュニケーションでは言語だけでなく、ジェスチャーなどの多様なチャネルを活用しており、相手の発話中にうなずくなどの双方向的で同時的なコミュニケーションを行っている。我々のチームでは、他者の振る舞いに合わせて自分の振る舞いを変えることで、他者の振る舞いも変化するというような循環的なインタラクションが生じているとの仮説の下で、人間同士が日常生活で行っている対話を計測し、機械学習を用いたモデル化に取り組んでいる。このようなモデル化を通して、現地であれば特別に意識すること無く機能する非言語コミュニケーションチャネルを半自律的に制御することで、生々しい情報を得ることができない遠隔地においても、ぎこちなさや不自然さのないアバターのための遠隔操作システムの開発に取り組んでいる。

過去の活動(報告書PDF)